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山口地方裁判所 平成8年(行ウ)5号 判決 1997年8月26日

原告 株式会社国弘本店

被告 防府税務署長

被告 国

主文

一  原告の各請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立

(原告)

一  被告防府税務署長が、平成六年八月三一日付けでなした、原告の平成四年四月二日から同五年三月三一日までの事業年度の法人税に係る過少申告加算税(加算税額金一万八〇〇〇円)及び重加算税(重加算税額金二六八万四五〇〇円)の各賦課決定処分を、いずれも取り消す。

二  被告国は、原告に対し、金二七〇万二五〇〇円及びこれに対する平成六年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  第二、三項につき仮執行宣言

(被告ら)

主文同旨

第二事案の概要及び争点

一  概要

本件は、清算法人である原告において、自らがなした平成四年四月二日から同五年三月三一日までの事業年度(以下、「本件事業年度」という。)に係る法人税の申告に対し、被告防府税務署長がなした、前記第一、(原告)、一に掲記するとおりの過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、「本件各賦課決定処分」という。)が違法であるとして、同被告に対し、その各処分の取消しを、また、被告国に対し、不当利得返還請求権に基づき、右各賦課決定処分によって原告が納付した合計二七〇万二五〇〇円の返還及び右納付日の翌日である同六年一二月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求めている事案である。

二  争いのない事実(本件賦課決定処分の経緯等)

1  原告は、金物卸売業を営む株式会社であったところ、平成四年四月一日解散し、清算法人となった。

2  原告は、本件事業年度の清算予納申告を、課税所得金額九六一五万五〇〇〇円、予納税額五九七七万五二〇〇円として行った。

しかしながら、被告防府税務署長は、平成六年八月二四日、原告に対し税務調査を行い、平成二年四月一日から同三年三月三一日までの事業年度(以下、「平成三年三月期」という。)に係る確定申告については、仕入一二九一万二六二一円の否認及び雑収入七九円の加算の、同年四月一日から同四年三月三一日までの事業年度(以下、「平成四年三月期」という。)に係る確定申告については、仕入七五六万六四三六円の否認及び雑損失六円の認容の、本件事業年度分の清算予納申告については、雑費五〇万円の否認の、各指摘をそれぞれ行った。

右各指摘を受けた原告は、平成六年八月三〇日、本件事業年度分について、課税所得金額を一億一七一三万四〇〇〇円、予納税額を六七六四万二三〇〇円とする清算予納修正申告を行った。

なお、このように課税所得金額が増加したのは、本件事業年度分の雑費五〇万円の否認に加えて、平成三年三月期及び同四年三月期において、前記のように仕入金額を否認されたことに伴い、本件事業年度における繰越欠損金の額が減少したことによる。

3  被告防府税務署長は、平成六年八月三一日付けで、本件事業年度分の清算予納申告に関し、加算税額を一万八〇〇〇円とする過少申告加算税及び加算税額を二六八万四五〇〇円とする重加算税の本件各賦課決定処分を行った。

原告は、平成六年一一月二八日、清算業務を結了し、同年一二月一三日、清算確定申告を行ったところ、右過少申告加算税額及び重加算税額の合計二七〇万二五〇〇円につき、同月二九日、既に納付していた清算予納金のうちから同金員を控除した二七一七万〇四〇〇円の還付を受ける形で、これらを支払った。

4  原告は、平成六年九月六日、被告防府税務署長に対し、本件各賦課決定処分に対する異議申立をなしたところ、同年一二月六日付けで右異議申立が棄却されたので、同月二六日、国税不服審判所長に対し、審査請求を行ったが、同八年四月三〇日付けで右審査請求も棄却された。

三  争点

本件の争点は、

<1>  清算予納修正申告に対して、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定をすることが適法か、

<2>  清算手続中における繰越欠損金の減少を所得とみることの適否

というところにある。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  争点<1>について

1(一)(1) 法人税法は、内国法人に対しては、各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を、清算所得については清算所得に対する法人税を課し(法人税法五条)、内国普通法人等の清算中に生じた各事業年度の所得については、当該法人が継続し又は合併により消滅した場合を除き、各清算事業年度中に生じた所得に対する法人税を課さないものとしている(同法六条)。

他方、同法は、清算中の法人は、漸次その財産を解体して行くところ、その残余財産が確定するまでには比較的長期間を要する場合があり、その間、清算中の法人には、利子、地代等の各事業年度ごとに発生する所得や、不動産売却益等の清算の途中で生じる所得があり、これら清算中の所得は、漸次実現していくのに対し、清算事務が長引くことによって清算所得に対する課税が著しく遅れることに対処する必要性とともに、納税の平準化を図り、さらに、解散した法人が再度継続した場合には、清算期間の各事業年度の所得に対する予納額を、継続した法人の当該期間に係る各事業年度の所得に対する法人税額とみなすことによって、遡って徴収することの困難や賦課決定処分の期間制限(国税通則法七〇条、七一条)によって課税に空白が生ずるのを防ぐ趣旨から、内国普通法人等に対しては、その清算中の各事業年度の終了の日の翌日から二月以内に、当該事業年度の所得を解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得とみなして計算した当該事業年度の課税標準たる所得の金額及び法人税額等を記載した申告書を、納税地の所轄税務署長に提出しなければならないと規定し(同法一〇二条一項一号、二号)、当該申告書の提出期限までに、当該金額に相当する法人税を国に納付しなければならないと規定している(同法一〇五条)ところ、かかる清算予納申告の制度趣旨及び法条の形式によれば、清算中の内国普通法人等は、各清算事業年度の所得に係る清算予納申告書の提出義務及び、右申告書記載の清算中の予納額の納付義務を負うものと解するのが相当である。

(2) 次に、国税通則法二条六号は、納税申告書について、申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により同号イないしへのいずれかの事項その他当該事項に関し必要な事項を記載した申告書と定義している。ところで、清算予納申告書には、「当該事業年度の所得を解散していない法人の所得とみなして計算した当該事業年度の課税標準たる所得の金額又は欠損金額」(法人税法一〇二条一項一号)及び「法人税の額」(同二号)等を記載することになっているところ、これらは、課税標準(国税通則法二条六号イ)及び納付すべき金額(同ニ)に該当するものであるから、国税通則法二条六号所定の右納税申告書に該当すると解される。

また、国税通則法一七条二項は、期限内申告書につき、申告納税方式による国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならない場合(同法同条一項)の納税申告書と規定しているところ、前記(1)のとおり、法人税法一〇二条一項は、清算中の法人に対し、納税申告書たる清算予納申告書を提出する義務を課しているものであり、その際、法定申告期限についても、「清算中の各事業年度の終了の日の翌日から二月以内」と定めているのであるから、清算予納申告書は、それが右法定申告期限までに提出された場合には、国税通則法一七条二項所定の右期限内申告書に該当するものと解される。

(3) さらに、国税通則法六五条一項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき同法三五条二項の規定により納付すべき税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課すると規定し、さらに、同法六八条は、同法六五条一項に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課す旨規定している(以下、過少申告加算税及び重加算税を合わせて「加算税」という。)。

(4) そして、前記(2)のとおり、清算予納申告書は、期限内申告書に該当するものと解されるところ、清算予納申告につき、他の申告納税方式と別異に取り扱うべきとする法規定も別段存しないことにも照らせば、清算予納申告の場合も、加算税の対象となるものと解される。

(二)(1) この点、原告は、国税通則法に規定されている期限内申告書、期限後申告書及び修正申告書は、それぞれ申告納税方式における確定本税額に係る申告方式を採用したものであって、清算予納申告に関する規定ではない旨主張するが、国税通則法二条六号並びに同法一七条一項及び二項には、右主張内容にあるような例外規定は設けられていない上、仮に、原告主張のように解釈したとすれば、清算予納申告の場合には延滞税(国税通則法六〇条一項)の対象ともならない結果を来たし、予定納税(所得税法一〇四条一項)の場合にも延滞税の適用がある(国税通則法六〇条一項四号)ことと不均衡が生じる事態を招くものであるから、原告の右主張は採用できない。

(2) また、原告は、国税通則法六五条三項二号ロにおいて、清算中の予納額を期限内申告税額において控除すべき税額としているとして、清算予納申告は加算税の対象にならない旨も主張するが、同条項は、期限内申告税額の意義につき、期限内申告書の提出に基づき納付すべき税額の計算において、清算中の予納額等がある場合には、その額を控除するものとしているに過ぎないことからして、清算確定申告の場合に、清算中の予納額を控除する趣旨であることは明らかであるから、清算予納申告が過少申告加算税の対象となるかどうかとは別問題というべきであり、原告の右主張は失当である。

2(一) そこで、加算税が課せられる趣旨を検討するに、これは、納税者自らの計算に基づいて所定の税率を適用した上で税額を算出し、これを申告してその税額を納付するという申告納税方式を採用する税制度において、適正な申告を行わない者に対し、加算税の賦課という行政上の制裁を加えることにより、納税申告制度の維持を図ることが必要であるとの考えに基づくものと解されるところ、申告納税方式の一である前記1(一)(1)に掲記した清算予納申告の目的に照らすと、この場合においても、納税者に対し、右加算税の賦課という制裁措置を課して、真正な申告を担保する必要性が高いものと思料されるのである。

なお、右加算税の賦課は、右のごとく、納税者が、清算予納申告において過少申告をなしたという事実に対して行われる行政上の制裁の一環であるから、清算確定申告により、右過少申告の瑕疵が治癒され、当該賦課決定処分が遡及的に失効するという余地はなく、この点に関する原告の主張は採用し難い。

(二)(1) これに対して、原告は、加算税は、本税に附帯する税であるから、加算税の賦課をなし得るためには、その前提としての本税が存在し、その税額が有効に確定していることを要すると主張する。すなわち、清算予納申告は、あくまでも予納に過ぎず、清算確定申告(法人税法一〇四条)によって初めて本税額が確定するというのである。

確かに、加算税は、国税通則法上では、延滞税と共に「第六章 附帯税」として規定されていることからみると、これは、本税に付加して課税される場合を予定しているものといえる。しかし、そもそも、附帯税は、納税の遅れや過少申告等に対する制裁として機能するものであるから、かかる計算の基礎としての本税の存在があれば足り、その税額が有効に確定していることまでの必要はないものと考えられるのであって、このことは、前記1(二)(1)のとおり、確定申告によって本税額が確定するものではない予定納税の場合も延滞税の対象となることからも明らかであり、この点に係る原告の右主張は失当である。

(2) また、原告は、確定申告に関する罰則規定(法人税法一五九条)が清算予納申告については準用されていないので、これが本税とは解されない旨主張している。

しかし、納税秩序の維持を図るため刑事制裁をもって臨まなければならないほどの行為と、前記(一)の趣旨に基づく加算税の対象となるべき行為とは、おのずからその範囲を異にするというべく、したがって、この点を踏まえない原告の右主張も失当である。

(3) さらに、原告は、所得税における予定納税(所得税法一〇四条一項)や法人税の中間申告(法人税法七一条一項、二項)においては、加算税が課せられない旨主張する。

確かに、予定納税や中間申告は、本税確定までの予納として機能するものであり、その意味では清算予納申告と類似したところを有するものである。しかしながら、予定納税は、前年分の課税額を本年分の納税額とみなして予定納税額を算出する(所得税法一〇四条一項)ものであって申告納税方式ではないし、中間申告の場合も、その税額は、原則として、当該事業年度の前事業年度の確定申告書に記載すべき法人税額を基礎としてなされる(法人税法七一条一項一号)のであり、中間申告書の提出がない場合には、前期の実績による中間申告書の記載事項を記載した中間申告書の提出があったものとみなす(同法七三条)もので、清算予納申告のような完全な納税申告方式を採用したものとは異なっており、しかも、予定納税及び中間申告の趣旨は、所得税の一年度や法人税の一事業年度において、一度に納税することは納税者の負担ともなるし、また、国庫歳入の平準化を図る意味から制度化されたものと解されるのである。したがって、予定納税や中間申告は、内国法人に対する課税の空白に対処するという趣旨をも包含する清算予納申告とはその制度の基礎を異にするものであるから、前二者が加算税の対象とならないからといって、清算予納申告をもこれらと同様に解することはできず、かくして、原告の右主張もまた失当である。

3 以上検討したとおりであるので、清算予納修正申告に対して、加算税の賦課決定をすることは適法である。

二  争点<2>について

清算予納申告につき、その趣旨は争点<1>で指摘したとおりであり、また、法人税法の規定上も、解散していない法人の所得とみなして計算した当該事業年度の課税標準たる所得の金額、法人税額等を記載した申告書を提出することとなっているのであるから、繰越欠損金の減少が、清算所得算定に当たり関係ないとしても、継続法人においては、法人税法五七条一項により、繰越欠損金に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額上、損金の額に算入するとされている関係上、この繰越欠損金に関する規定は、当然に清算予納申告にも適用されるものと解される。

よって、繰越欠損金は、継続する法人の課税においては意味を有するが、清算所得算定を課税標準とする場合には、その算出に当たって繰越欠損金は何らの意味を有しないものである(法人税法一〇二条に規定する、解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得に対する課税標準の計算式を準用する旨の定めは、あくまでも清算所得に対する課税を担保するために予納額を算出するための手段として課税標準の計算式を利用しているだけである。)との原告の主張は失当である。

三1  ところで、前記第二、二2に掲記した事実に加えるに、甲第一、二号証によれば、原告は、平成五年五月二四日、被告防府税務署長宛てに、本件事業年度の課税所得金額を九六一五万五〇〇〇円、予納税額を五九七七万五二〇〇円として清算予納申告書を提出しており、それを、同六年八月三〇日、課税所得金額を一億一七一三万四〇〇〇円、予納税額を六七六四万二三〇〇円として修正申告書を提出していることが認められるところ、右清算予納申告書は期限内申告書に該当することに照らすと、この経緯は、国税通則法六五条一項に規定する期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときに該当することは明らかである。そして、右修正申告書の提出は、弁論の全趣旨によれば、原告において、被告防府税務署長が同月二四日に原告に対して行った税務調査により、その国税について更正があるべきことを予知してなされたものであることも明らかであるから、同法六五条五項の適用除外例には当たらないというべきであるので、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である(なお、過少申告加算税額の計算自体については、当事者間に争いはない。)。

2  また、前記一1(一)(3)のとおり、重加算税は、国税通則法六五条一項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに課される(国税通則法六八条一項)ものであるところ、前記第二、二2に掲記した事実に加えるに、甲第一、二号証によれば、原告は、本件事業年度における不動産の譲渡益の発生による所得金額に係る税負担を軽減する目的で、平成三年三月期において、一二九一万二六二一円の、同四年三月期において、七五六万六四三六円の、いずれも取引に基づかない架空の仕入を計上し、これらにより本件事業年度における繰越欠損金を増加させていたものと認められるので、原告は、右にいう一部隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた者に当たるといわざるを得ず、したがって、本件における重加算税賦課決定処分もまた適法である(なお、重加算税額の計算自体についても、当事者間に争いはない。)。

四  そして、このように、本件各賦課決定処分はいずれも適法であるから、同各賦課決定処分の違法を前提とした被告国に対する不当利得返還請求は、理由がないこととなる。

第四以上の次第であるから、原告の本訴各請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石村太郎 阿多麻子 澤田正彦)

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